欧州統一特許裁判所(Unified Patent Court; UPC)からオプトアウトすべきか?
単一特許(Unitary Patent; UP)や統一特許裁判所(Unified Patent Court; UPC)についての説明は、多くの記事があるためそこに一任し、本稿においては実務上検討が必要となる、オプトアウトすべきか否かについての考えたについて説明します。前提として、オプトアウトしなかった場合は、移行期間中(6年予定で、最長12年)はUPCと各国裁判所との並行管轄となり、移行期間経過後はUPCのみの管轄となります。
オプトアウトした方がいい場合
特許性が低い場合(進歩性が弱い場合)
欧州統一特許裁判所(以後UPCという。)で特許が無効となった場合、各国の特許も同時に無効となります。これをセントラルアタックと言います。
オプトアウトを選択した場合、たとえいずれかの国の特許が無効になった場合でも、他の国では権利が残って権利活用が可能となります。
UPCの運用を様子見したい場合
UPCは、2023年6月1日からスタートする裁判所であるため、判例も蓄積されておらず、どのような判断がなされるか不明です。UPCの第一審裁判所の地方部では、経験のない人もいます。
一方、各国裁判所においては裁判例が蓄積されています。
そのため、どのような判断基準か不明なUPCでの裁判を避けたい場合は、オプトアウトしておき、ある程度判例が蓄積されてからオプトインするのも一案かと思います。
オプトアウトしない方がいい場合
特許性が高い場合
この場合は、セントラルアタックの懸念は少ないです。
複数国で侵害される可能性が考えられる場合
特許権が存在している複数の国で同じ侵害品が流通している場合、1つの訴訟にて複数国の侵害が裁かれます。
UPCでの経験を早期に積みたい場合
移行期間経過後は、UPCの管轄に一元化されます。それまでにUPCの運用になれるべく、オプトアウトしないことも一案です。
訴訟の長期化を避けたい場合
UPCは訴訟の期間の目標を12ヶ月としているため、事件の早期解決が期待できます。
私見
日本企業の特許案件で、欧州で裁判等が行われることは実質的に多くはないように考えられ、知財部等も経験が少ない、または無いことが多いように思います。そんな状況で、いきなりUPC管轄での裁判が提起された場合、情報が少なく、現地代理人ですら経験が浅く、対応に非常に困るかと思われます。そのため、私見としては当初はオプトアウトをしておき、判例が積み重なり、現地代理人の経験も増えた後、様子をみつつオプトインを検討することが無難かと考えます。
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