明細書における発明の効果の記載について【日本の場合】
結論
【発明の効果】の欄には独立請求項の構成のみによって必ず得られる作用効果を一言で記載し、実施形態、実施例には、各構成と発明の効果とをセットで詳細に記載することが良いと考えています。
2.理由
大まかに、明細書に発明の効果を記載するメリットとしては、発明の理解を容易にし、進歩性を主張しやすくなることがあり、デメリットとしては権利範囲が狭く解釈される、又は権利範囲を狭めるように補正せざるを得なくなることがあるかと思います。
メリット
引用発明と比較した有利な効果が、引用発明が有するものとは異質な効果を有する場合や、同質の効果であるが際立って優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測することができたものではない場合には、これらの効果により進歩生の存在が推認されます。このことは、いくつかの裁判例に記載されています。ここで、例えば出願段階において明細書に発明の効果の記載がない場合であっても、意見書で効果を主張できることもあります。しかし、当該効果が明細書の記載から推論できないときは、意見書で発明の効果を主張しても審査官はこの主張を採用してくれません(審査基準第 III 部 第 2 章 第 2 節 進歩性 3.2.1(2))。そのため、化学、材料系やパラメータ発明等、それ自体の構成だけでは作用効果を推論できない場合は明細書に効果を記載しておくことで、進歩性の主張を行いやすくなります。
デメリット
例えば、【発明の効果】の欄に、独立請求項以外の前提構成(例えば従属請求項の構成)を備えることによって初めて奏される効果を記載した場合、独立請求項の構成のみによっては発明の効果を奏することができないとしてサポート要件違反の拒絶理由通知が来ることがあります。そうなると、独立請求項に前述の前提構成を限定せざるを得なくなります。また、審査官が見過ごして特許になったとしても、侵害者は作用効果不奏功の抗弁により、権利行使を逃れることが可能となります。発明の効果の記載が不利に扱われた事例として、東京地判平成18.4.24(平成17(ワ)14066)、知財高裁(平成22(ネ)10072)、大阪地裁(平成22(ワ)10984)等があります。
まとめ
以上の点を総合的に勘案すると、上述のように、【発明の効果】の欄には、独立請求項の構成のみによって奏される効果を一言で記載し、各請求項のそれぞれの作用効果は、実施形態、実施例において、構成と効果をセットとして記載することが好ましいと考えます。
なお、後の外国出願を考慮し、国内出願の段階から明細書の記載を出願予定国の実務に沿った記載にする必要があります。明細書における発明の効果の記載の、主要外国の取り扱いについては、別途述べようかな、と考えています。
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