令和元年(行ケ)第10117号 特許取消決定取消請求事件【機械式駐車装置事件】新規事項の追加

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令和元年(行ケ)第10117号 特許取消決定取消請求事件【機械式駐車装置事件】新規事項の追加

判決:決定取消
取り扱うテーマ:新規事項の追加
本ブログでは要点のみ解説するため、詳細は判決文をご覧ください。
判決文はこちら

異議申し立てにおける決定の内容

主な論点は、異議申し立て継続中において特許権者が行った訂正請求が新規事項の追加となるか否か。
今回は訂正請求によって追加された下線箇所のうち、B要件の黄色マーカー箇所が論点となっています。黄色マーカー箇所は私が付けました。

【請求項1】
「A 格納庫へ搬送される車両が載置され,前記車両の運転者が前記車両に乗降可能な乗降室が設けられる機械式駐車装置であって,
前記車両の運転席側の領域の安全を人が確認する安全確認実施位置の近辺及び前記運転席側に対して前記車両の反対側の領域の安全を人が確認する安全確認実施位置の近辺のそれぞれに配置され,人による安全確認の終了が入力される複数の入力手段と,
前記乗降室の外側に設けられた操作盤に配置され,前記車両の搬送の許可が入力される許可入力手段と,
C 人の前記乗降室への入退室を検知する入退室検知手段と,
D 前記入力手段に前記安全確認の終了が入力されている状態で,前記許可入力手段への操作が行われた後に,前記車両の搬送を実行する制御手段と,
を備え,
E 前記制御手段は,いずれかの前記入力手段に前記安全確認の終了が入力された後から,前記許可入力手段への操作が行われるまでの間に,前記入退室検知手段によって前記乗降室への人の入室が検知された場合,前記入力手段への前記安全確認の終了の入力を解除する
F 機械式駐車装置。」

判決文より

上記B要件の黄色マーカー箇所の追加について、異議申し立ての決定においては、以下の判断がなされています。一部省略しつつ、要点のみ掲載します。

 この特定では,「安全確認実施位置」及びその「近辺」が,乗降室内か乗降室外のどちらであるか,またその両方であるのか,明確ではない。
 本件明細書等の記載によれば,・・・(中略)・・・「安全確認実施位置」は,カメラとモニタを介さずに車両の左右に移動して直接目視により確認する場合は,乗降室内の車両の右側及び左側を意味し,カメラとモニタを介して確認する場合は,乗降室内の車両の右側及び左側に加えて,乗降室外の操作盤,操作盤近傍及びその他乗降室外を意味する。・・・(中略)・・・特許権者が主張するような,カメラとモニタを介さずに車両の左右を直接目視により確認する場合において,安全確認実施位置が乗降室外を含むことは,本件明細書等に記載した事項の範囲を超える。よって,請求項1に係る訂正事項は新規事項を追加する訂正である。

判決文より

知財高裁の判断

知財高裁の判断の要点を下記に掲載します。

 発明の目的・意義という観点から検討すると,安全確認実施位置や安全確認終了入力手段は,乗降室内の安全等を確認できる位置にあれば,安全確認をより確実に行うという発明の目的・意義は達成されるはずであり,その位置を乗降室の内又は外に限定すべき理由はない(被告は,このような解釈は,本件明細書【0055】【0064】を不当に拡大解釈するものであるという趣旨の主張をするが,この解釈は,本件明細書等全体を考慮することによって導き得るものである。)。
 この点につき,被告は,乗降室の外から目視で乗降室内の安全を確認することは極めて困難ないし不可能であると考えるのが技術常識であるから,本件明細書等において,乗降室外目視構成は想定されていないという趣旨の主張をする。しかしながら,乗降室に壁のない駐車装置や,壁が透明のパネル等によって構成されている駐車装置等であれば,乗降室の外からでも自由に安全確認ができるはずであるし(その1つの例が,別紙2の駐車装置である。なお,被告は,本発明は,「格納庫」へ車両が搬送される機械式駐車装置の発明であることや,本件明細書等の図1の記載から,乗降室の外から乗降室内を目視することはできないと主張するが,「格納庫」が外からの目視が不可能な壁によって構成されていなければならない理由はないし,上記図1は,実施例1の構成を示したものにすぎず,駐車装置の構成が図1の構成に限定されるものではない。),仮に乗降室が外からの目視が不可能な壁によって構成されている場合でも,出入口付近の適切な位置に立てば(したがって,そのような位置やその近傍を安全確認実施位置として安全確認終了入力手段を配置すれば),乗降室外からであっても,目視により乗降室内の安全確認が可能であることは,甲19の報告書が示すとおりであり,いずれにせよ被告の主張は失当である。また,仮に被告の主張が,訂正後請求項1は,安全確認実施位置や安全確認終了入力手段が,目視による安全確認が不可能な位置にある場合までも含むものであるという意味において,本件明細書等に記載のない事項を導入するものであるというものであるとしても,「安全確認実施位置」とは,安全確認の実施が可能な位置を指すのであって,およそ安全確認の実施が不可能な位置まで含むものではないと解されるから,やはり,その主張は失当である。

判決文より

コメント

本事案は、明細書に記載の発明の効果から、上記B要件の「安全確認実施位置の近辺」の意義が解釈された事例になるかと思います。
明細書に効果を書くことについては、明細書における発明の効果の記載について【日本の場合】明細書における発明の効果の記載について【外国出願も考慮】で述べたとおりメリット、デメリットがありますが、今回は有利に働いたのかと思います。

今回は、請求項1の上記B要件に「近辺」とのあいまい文言が入っていることから、争いが生じやすくなったものと考えます。
このような曖昧表現があると、今回は新規事項の追加の有無が争いになっていますが、明確性、サポート要件違反など、他の争いも生じやすいです。
例えば構成(構造で特定することが厳しければ機能表現等)で明確に配置場所を特定できれば今回のような新規事項の追加の争い自体がそもそも生じなかったと思いますので、請求項には可能な限り曖昧表現は避けることで無用な争いを避けることができます。

被告側については、おそらく、入力手段の配置位置を乗降室の内側に限定させ、自社は入力手段の配置位置を乗降室の外側にして実施することを狙ったものと予想しますが、請求項において、入力手段の配置位置が乗降室の内側か外側かについては特に言及されておらず、少し厳しい主張だったと思われます。

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